調理の背景

食生活論の講義で学生に質問した。

なぜ日本ではこれほど飾り切りの文化が発達し、伝承されているのか。

正月が近くなれば里芋は亀甲型に切り、

レンコンも花型にする。

人参も大根も型があれば型抜きするし、

なくても包丁で何らかの形をつくることができる。

今の季節なら、かぼちゃを木の葉型に切ったりする。

 

煮込み料理は西欧諸国にもあるのに

ビーフシチューやボルシチの野菜は特別な形に切ることはしない。

 

それはなぜか。

 

最近の学生、

特に国家試験をめざす学生たちは

覚えることに追われ、それを勉強だと思っている。

 

どう思う?

と問われるとみな下を向く。

 

そこを嫌われながらもしつこく問うのが教師歴四十年を超える私の仕事。

 

このシチューの野菜の切り方についての問いかけにも

渋々いろいろな答えが返ってきた。

 

それそれ!

考えることが大切なのだと膝を打った。

 

この問いの唯一の正解というのはないが、

整理してみよう。

 

西欧は肉を食べる。

 

肉は煮込まなければ食べられない。

 

いっしょに野菜を煮込めば崩れる。

 

崩れてもブラウンソースやトマトソースなら形は見えない。

 

だが

 

透明感のある出汁で煮れば、

素材の姿は見える。

 

そのあたりだろ。

 

そして学生に言った。

 

卵焼きは日本のおかあさんはみんな作れるけれど

いわゆる外国のママたちは作れないのよ、とね。

 

私は毎朝丸いフライパンで作るが、

フライパンがなんであれ、くるくると丸めることができる。

 

私だけではない。

 

日本は出汁文化に加えて、

器用さを育てた国なのだと、

そのことに気づきさえしたら、

食の勉強はもっと楽しくなると私は思っている。